教授 福岡 淳

所属:触媒科学研究所・大学院総合化学院(理学部化学科)

専門分野:化学、触媒化学

研究のキーワード:触媒、ナノ構造化学、鮮度保持、セルロース、バイオマス燃料

出身高校:大館鳳鳴高校(秋田県)

最終学歴:東京大学大学院工学系研究科

HPアドレス:http://www.cat.hokudai.ac.jp/fukuoka/

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

何を研究しているのですか?

触媒の研究をしています。触媒は化学反応を加速する物質です。そのままでは進まない反応でも、触媒を使えば短時間で進めることが可能になります。私は固体触媒の研究を中心に行っていますが、研究を進める上で二つのアプローチを用いています。一つは、自分の興味のある材料が使える反応を探すというもので、もう一つは目的反応のために触媒を探すというものです。前者の研究は、冷蔵庫触媒として野菜・果物の鮮度保持につながりました。一方、後者は、バイオマスを分解してプラスチックや燃料の合成を目的としています。固体触媒の設計のためにナノ構造化学の観点を踏まえて触媒化学の基礎を検討し、使える反応に応用する研究を行っています。

触媒による野菜・果物の鮮度保持

図1 プラチナ触媒によるエチレン酸化

私たちは小さな孔が規則的に並んでいるメソポーラスシリカという材料に興味をもち、この材料が使える触媒反応を探すという研究を行っています。数年前に、メソポーラスシリカの細孔に白金の超微粒子をつけた触媒を用いて、エチレンの酸化反応の研究を開始しました。エチレン酸化では部分的な酸化によるエチレンオキシド(ペットボトルの原料)の合成が望まれていますが、この触媒を使うとエチレンは二酸化炭素(CO2)まで酸化されてしまい、目的物は全く得られませんでした。しかし、野菜は微量のエチレンを放出し自分自身の熟成を進めてしまうという論文を読み、エチレンを低温でCO2まで完全酸化できれば、野菜や果物の鮮度保持に使えることに気づきました。そこで、私たちの触媒を試してみると0ºCでも微量のエチレンを完全に酸化し、CO2と水が生成することが分かりました(図1)。これがきっかけとなり、企業と冷蔵庫触媒としての応用について共同研究を行い、この触媒(“プラチナ触媒”と名付けられました)を搭載した冷蔵庫は、2015年に発売され、現在も店頭に並んでいます。プラチナ触媒により、野菜の保存期間が延びるとともに、肉や野菜から出るにおい成分を減らすことができます。この触媒技術は、付加価値の高い北海道産農産物の貯蔵・輸送にも応用できると期待しています。

固体触媒によるバイオマス変換

図2 セルロースの加水分解・水素化

私たちは、固体触媒によるバイオマスの変換の研究も行っています。バイオマスを有機化合物の原料に使えば、有限な資源である石油の消費が抑えられ、温暖化対策にもなります。しかし、バイオマスの変換は簡単ではなく、最大の難関はセルロースの分解です。セルロースは固い結晶構造をとるので分解が難しい上に、いったん分解が起きると目的のグルコースで反応を止めることが困難です。従来から触媒として酵素や硫酸を用いる方法が試みられていますが、再使用が難しいなどの問題があります。一方、固体触媒は分離・再使用が容易なので有利になると考えて研究を始めました。そして、担持金属触媒による加水分解・水素化によりセルロースの分解が進行し、グルコースを経由してソルビトールが生成することが分かりました(図2)。これは、世界初の固体触媒によるセルロース分解です。 その後はグルコースの合成に焦点を絞り研究を進めています。最近、私たちは強い酸をもたない活性炭でも反応が進むことを見つけ、活性炭上の弱い酸が触媒として働くことを明らかにしました。そして、バイオマス自身から弱酸性炭素触媒をつくり、バイオマスを分解させる循環プロセスを構築しました(図3)。この方法では安い原料から触媒を作ることができるので、セルロース分解の実用化が視野に入ってきました。近いうちに、バイオマスからプラスチックやバイオマス燃料をつくることが可能になると期待しています。

図3 弱酸性炭素によるバイオマス分解の循環プロセス

次に何を目指しますか?

プラチナ触媒の構造と反応機構の相関について研究します。そして、より高性能の触媒を設計するとともに、白金などの貴金属を使わずに卑金属で代替することを目指しています。バイオマスの研究では、弱酸性炭素の性能を向上させこの触媒を用いたバイオマス分解が実用化されることを目標としています。

参考書

江口浩一編著 『触媒化学』 丸善出版(2011)