うしお丸

教授 髙津 哲也

所属:大学院水産科学研究院・大学院水産科学院(水産学部海洋生物科学科)

専門分野:魚類生態学、水産資源学、水産海洋学

研究のキーワード:水産資源の研究、資源変動、気候変動、初期生活期、練習船

出身高校:東京都立富士高校

最終学歴:北海道大学大学院水産学研究科

HPアドレス:http://www2.fish.hokudai.ac.jp/faculty-member/takatsu-tetsuya/?key=jp

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

漁獲量はなぜ変動するのか?

「マイワシの漁獲量急増!サンマ不漁!地球温暖化のせいか?」といったニュースを見かけせんか?実は、魚の資源変動メカニズムは、現在でもほとんど未解明なのです。私は気候変動(海洋環境変動)と魚の資源変動の因果関係の解明に取り組んでいます。

卵・仔魚・稚魚期(初期生活期)の高死亡率と、乱獲が資源減少の原因

  資源が減少する原因には、純粋な自然現象と、人間による乱獲があり、両者の同時発生もあります。ここでは、青森県陸奥湾のイカナゴを例として、大量の融雪水が資源を減少させた研究例を紹介します。 陸奥湾には、湾口部にイカナゴの産卵場があり、2月頃に孵化した仔魚は陸奥湾西湾に分散してプランクトン生活を送ります。その後5月に親の形態によく似た稚魚まで成長すると、昼間は西湾西側から湾口部の海底上に暮らすようになります(図1)。漁船は夜に灯りをつけて、浮上してくる稚魚を網で掬って漁獲します。この稚魚は「小女子(こうなご)」とも呼ばれ、天日で干して出荷されたものが「こうなごのちりめん」で、関西では甘い「釘煮」にします。 イカナゴは2~5歳で成熟し、毎年雌1尾当たり2.2~6.6万個産卵します。これらの卵のうち、雄1尾と雌1尾が漁獲をかいくぐり、自然死亡もなく成魚になって産卵に参加すれば、イカナゴ資源は維持できるはずです。産卵数から計算するとその生残率は0.0031~0.0089%であり、宝くじに大当たりするくらい低い確率です。 死亡率が非常に高い時期は、小型で脆弱な卵や仔魚・稚魚の時期です(初期生活期)。そのためこの時期を人間が陸上養殖施設で大切に育ててから、死亡率が低い大型の体長になってから放流すれば、たくさん生き残り、親も増えるはずです。これが「種苗放流が効果的」である理由です。でも、種苗放流には手間と経費がかかるため(電気代、人件費、餌代、施設維持費など)、大きく成長する魚や高級魚にしか行われていません。受精から成魚まで陸上で育てる「完全養殖」はもっと経費がかかるので、フグや一部のヒラメ、チョウザメなどの高級魚で行われているだけです。イカナゴは安価なので、種苗放流も完全養殖も行っていません。

どんな方法で調査をしたのか?

図2 陸奥湾のイカナゴ浮遊仔魚の体重に影響を及ぼす環境要因(Nanjo et al.,2017を改変)

北大水産学部附属練習船うしお丸と、地元の漁船を用船して、プランクトンネットでイカナゴ仔魚や、その餌生物であるプランクトンを採集し、CTDという機器で海水密度や水温・塩分を2週間おきに3年間調べました。図2は、それらの因果関係をpath解析という重回帰分析で分析したものです。 2つの体長階級ともに、水深5 mと35 mの海水密度の差が小さいと、つまり陸奥湾の表層に雪解け水の流入量が少ないほど、冬季の鉛直混合が促進されて餌生物が増え、同時に水温が低いほど餌も多く食べ、体長6 mmと10 mm時点で栄養を蓄えて太っていることがわかりました。この結果は死亡率の年変化にも反映し、1999~2001年の3年間では、1999年は雪解け水が多量に陸奥湾に流入した結果、仔魚は3年間で一番多かったのに稚魚まで生残した尾数は一番少なく、漁獲量も減りました(図3)。つまり「雪解け水が多い年には、イカナゴの漁獲量を抑制する必要がある」と予測できるようになりました。

次に何を目指すか

イカナゴ以外にも私は、学生達と一緒にマダラやアカガレイ、ソウハチ、マコガレイ、マガレイなどの様々な海産魚類の資源変動の仕組みを研究してきました。その結果、ここで紹介した雪解け水の量や餌の量、水温以外にも、天敵の数や季節風の強さ、暖流の強さなど、様々な要因が魚種ごとに資源変動に影響を及ぼしていることがわかりました。また同じ魚種でも、産卵場が変われば影響する要因も変化することがわかりました。これからも様々な魚種・産卵場ごとに、仔稚魚の死亡率の年変動要因を調べて、それに応じた乱獲防止策を提案してゆきたいと考えています。

図3 陸奥湾のイカナゴ浮遊仔魚の密度とその後の稚魚の漁獲量の関係。1999年は3年間で一番仔魚が高密度だったのに、稚魚まで生残した個体は一番少なく、高死亡率だった。2001年は逆に低死亡率だった

参考書

  1. 伊藤欣吾.「陸奥湾周辺のイカナゴ(コウナゴ)禁漁」青森県水産研究情報『水と漁』、(地独)青森県産業技術センター、平内町13: 6 (2013)
  2. N. Nanjo, T. Takatsu, K. Imura, K. Itoh, Y. Takeya, T. Takahashi.「Feeding, somatic condition and survival of sand lance Ammodytes sp. larvae in Mutsu Bay, Japan」 Fish. Sci. 83:199-214 (2017). DOI: 10.1007/s12562-016-1054-0