教授 山口 博之

所属:大学院保健科学研究院・大学院保健科学院(医学部保健学科)

専門分野:微生物学

研究のキーワード:原生生物、共生、クラミジア、微小生態系、微生物間相互作用

出身高校:日本大学第二高校(東京都)

最終学歴:杏林大学保健学部

HPアドレス:http://www.hs.hokudai.ac.jp/yamaguchi/

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

何を目指しているのですか?

決して肉眼で捉えられませんが、身の周りには複雑怪奇に鬩ぎ合いながら営みを続ける細菌、原生生物、真菌といった無数の微生物が存在します。口、腸管、皮膚だけではありません。学校の校庭の土の中や机の上、台所やダイニングテーブル、地下通路や今吸い込んだ空気の中にも。一体何をしているのでしょうか。細菌は、今から30数億年以上前に誕生し、現在までしたたかに生き延びてきた強者、必ず何かをしているはずです。恐らく人類は身の周りの微生物から計り知れない恩恵を享受されているはずですが、残念ながらそれらが果たしてきた役割をまだまだ十分に理解することができていません。私たちは、細菌と原生生物(アメーバ)の鬩ぎ合いや屋内マイクロバイオーム(どのような微生物がどの程度そこにいのか)、さらに身の周りの微小生態系の可視化作業から、これまで捉えられてこなかった微生物間で絶え間なく起こっている普遍的な生命現象の探索に挑んでいます。

実際にはどんな装置を使ってどんな実験をし、何がわかりましたか?

札幌地下歩行空間での検証実験から見えてきたこと

写真1

皆さんは、地下鉄札幌駅から大通にかけて整備された約520mの地下歩行空間を散策したことはあるでしょうか。夕方は、地下鉄の改札からあふれんばかりの人たちが行き来しています。人混みは、そこにいる微生物にどのような影響を与えるのでしょうか。そこで私たちは、実際にエアサンプラーという機械を用いて地下歩行空間の空気を経時的(5~7月にかけて)に集め検証してみました(写真1: 実際に稼働しているエアサンプラー)。その解析結果は、とても複雑なものでしたが、温度と湿度の上昇に伴い空間に浮遊する微粒子数は増加し、それが通行人からリリースする細菌を誘発する可能性があるようです。屋内環境の衛生状態を維持する上で、とても有用な情報です 。

繊毛虫は細菌間の遺伝子水平伝播を促進する

皆さんは、20マイクロメーターほどの繊毛虫という原生生物を知っていますか。身の周りの土壌や池、河川水などどこにでもいる普遍的な微生物です。餌は細菌ですが、周囲にいる細菌をムシャムシャと食べ尽くす大食漢として良く知られています。私たちは、周りにいる細菌は、ただ食ベられるだけで何の恩恵も受けていないのかな、と疑問に思っていました。実は繊毛虫が細菌を食べると、小さな袋に細菌を大量に詰め込んで、吐き出すことが知られています。そこで私たちは、細菌が一箇所に高密度にパックされることで細菌間の遺伝子の水平伝播が促進するのではと、仮説を立て検証してみました。その結果、予想通り二種類の細菌と繊毛虫を混ぜ培養すると、繊毛虫内に取り込まれた細菌は、一つの袋にパックされ、接合伝達頻度を促進することが分かりました(写真2: 赤と緑でラベルした大腸菌が一つの小胞にパックされ黄色になった)。この成果は、環境で細菌が多様性を獲得する際の、「場」を考える上でとても重要です 。

写真2

アメーバが、アメーバの天敵レジオネラ(高齢者には肺炎を起こす病原細菌)を撃退する

細胞内の共生細菌とともに暮らしているアメーバがいます。その中に、その共生細菌を取り除いてあげると、元気になるアメーバがいました。この共生細菌は、TCA回路を司る酵素がほとんど見当たらないので、このアメーバの外では子孫を残せません。このアメーバは、ものすごいエネルギーを使ってこの細菌の共生を許していることになります。何故でしょうか。私たちは、アメーバの天敵、レジオネラへの感受性を除菌したアメーバとともに比較してみました。その結果、除菌アメーバに比べ細菌が共生するアメーバは、レジオネラが感染し難いことを発見しました 3 。アメーバも共生する細菌も、持ちつ持たれつ、とてもうまく寄り添いながら生きているようですね。

さてこれから何を目指しますか?

私たちの研究はまだ始まったばかりです。原生生物と細菌の鬩ぎ合いは、想像以上に微小生態系が複雑であることを示唆しています。その一方で、これまでの研究成果は、身の周りの微小生態系のダイナミクスを解明する上で、また感染症から人を守る為に多くのヒントを与えてくれています。身の周りのありふれた微生物間の相互作用を旨く利用することで、人に襲いかかる病原体を旨く制御し、感染症が予測に基づき防げるようになるかもしれません。近い将来、抗菌剤がいらなくなる時代がやってくるかもしれませんよ!?

参考書

  1.  Okubo T, Osaki T, Nozaki E, Uemura A, Sakai K, Matushita M, Matsuo J, Nakamura S, Kamiya S, Yamaguchi H. Walker occupancy has an impact on changing airborne bacterial communities in an underground pedestrian space, as small-dust particles increased with raising both temperature and humidity. PLoS One. 2017 Sep 18;12(9):e0184980.
  2.  Matsuo J, Oguri S, Nakamura S, Hanawa T, Fukumoto T, Hayashi Y, Kawaguchi K, Mizutani Y, Yao T, Akizawa K, Suzuki H, Simizu C, Matsuno K, Kamiya S, Yamaguchi H. Ciliates rapidly enhance the frequency of conjugation between Escherichia coli strains through bacterial accumulation in vesicles. Res Microbiol. 2010 Oct;161(8):711-9.
  3.  Ishida K, Sekizuka T, Hayashida K, Matsuo J, Takeuchi F, Kuroda M, Nakamura S, Yamazaki T, Yoshida M, Takahashi K, Nagai H, Sugimoto C, Yamaguchi H. Amoebal endosymbiont Neochlamydia genome sequence illuminates the bacterial role in the defense of the host amoebae against Legionella pneumophila. PLoS One. 2014 Apr 18;9(4):e95166.