アイキャッチ_デンマークのBornholm島にあるSydbornholms Privatskoleの子どもたちが描いた絵

教授 横井 敏郎

所属:大学院教育学研究院・大学院教育学院(教育学部教育学科)

専門分野:教育行政学

研究のキーワード:公教育制度、教育機会保障、教育の自由、教育的価値

出身高校:四條畷高校(大阪府)

最終学歴:立命館大学大学院文学研究科

HPアドレス:https://www.edu.hokudai.ac.jp/

※この記事は「知のフロンティア」第4号に掲載した記事を、ウェブ用に再編集したものです。

何を目指しているのですか?

私の専門とする教育行政学は、子ども・若者の学習・発達権を保障するための制度的条件を探究する学問です。教育には教授・学習という行為があり、この実践こそがその根幹にあります。しかし、たとえば、学校で教える教育内容は、どこの国でも政府が基準や指針を決定しています。日本の小中高校教員は公立だけで約75万人いますが、この数や学校ごとの配置人数も国の基準によって定められています。 学校教育とは実践であり、また同時に制度的なものでもあります。 このように学校教育は制度として作られているため、どのような理念と政策をもって制度を設計するかが非常に重要になってきます。学校はすでにできあがった制度のように見えますが、実はまだまだ不十分なところが多々残されており、新しい時代の要請に応えて教育をよりよいものへと発展させていくことが求められています。

具体的にはどのように研究をしているのですか?

発展途上国の中にはいまだ義務教育が十分に整備できていない国も多くあります。日本の義務教育の就学率(在学している子どもの割合)は非常に高く(99.99%)、学校に籍を置いていない子どもはほとんどいません。しかし、中学校の不登校率(年間30日以上欠席した生徒の割合)は約3%に上ります。義務教育に中退はありませんが、高校になると状況によっては中退という結果に至る場合もあります。海外の先進国でもこうした早期離学が見られ、特に高校年齢段階のドロップアウトが大きな社会問題になっています。

コペンハーゲンにある生産学校AFUKの身体表現の授業。生産学校は座学ではなく、実際に何かを制作したり、活動したりして学ぶ。

もっとも、国によって状況がかなり異なります。私はここ数年、北欧のデンマークとフィンランドを調査しているのですが、この両国は義務教育段階で学校を離れてしまう生徒の比率が非常に低いと分かりました。まずこれらの国は社会保障や雇用の制度がしっかりと整備されているため、経済的貧困が小さく、それに起因して発生する問題が少ないということが言えます。また問題が生じても学校任せや教師任せにせず、迅速にソーシャルサービス行政が介入し、子どもたちの学習と生活の環境を改善する仕組みが整備されています。日本はこのいずれに点も大きく立ち後れています。

デンマークのオーフス大学の研究者たちからレクチャーを受けているところ。

特にデンマークとフィンランドの教育制度で注目しているのは、中学校段階あるいは高校段階において、通常の学校に通い切れない生徒を受け入れる場を柔軟に用意している点です。どこの国でも、義務教育にしても高校にしても一度そこから出てしまうと、教育の場にもどることは非常に困難です。近年、ヨーロッパではセカンド・チャンス・エデュケーションを充実させていこうという動きが生まれています。私はデンマークとフィンランドのセカンド・チャンス・エデュケーションの場をいくつか実際に見てきました。 教育行政学は名前からして固い学問に思われるかもしれませんが、研究活動は非常にアクティブです。実際に教育の現場を訪問し、子どもや教師の声を聞きながら、自分の目で確かめなければ確かな研究になりません。またこの研究はチームで行っています。対象国は、日本はもちろんのこと、北欧、カナダ、韓国などに広がっています。

次に何を目指しますか?

興味深いのは、デンマークでは教育は市民がみずから作り、実施するものという意識が非常に強い点です。教育の自由を規定した憲法をもっている国がヨーロッパには多くあります。デンマークの場合、これが多様な学校群を残すことになった要因の1つだと思われます。日本は国からの管理が非常に強く、教育の自由の面が弱い形で公教育制度が形成されてきました。日本のシンプルな教育制度は高い就学率をもたらしていますが、地域・学校の自律性が弱く、私学も独自の教育的価値に基づいた教育を実施する存在というよりは、量的補完型私学と言われます。

共同(togetherness)の価値を重視するデンマークのフリースコーレ(私学)の朝の集まり

英米など一部の国では教育の自由化を進めたため、教育格差が拡大したのではないかと議論されています。教育の自由を認めながら、教育格差の拡大を防ぎ、多様な価値を尊重する教育を育むことは非常に難しい課題です。これまで困難な状況にある子ども・若者を包摂する教育制度を探ってきましたが、今後はより広く多様な価値を包容できる制度がいかにして可能かについても考えたいと思っています。

参考書

  1. オーヴェ・コースゴー『光を求めて―デンマークの成人教育500年の歴史』 東海大学出版会 1999年
  2. 結城忠『教育の自治・分権と学校法制』 東信堂 2009年